<歴史が動いてヒストリ庵~エンシューの衆ら~3> 第六章【エンシュー今川焼】vol.17

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今川義忠(いまがわよしただ)が闇討ちされた明朝。
彼が殺されたと聞かされていなかった下部の兵にも、
何かやんごとなき事が起きているのだと分かるほどに、
その場の空気は慌ただしく浮足立っていた。
彼らは重臣を先導にそそくさとスルガへ退却をする他なくなった。
当主のいなくなった今川家とその家臣。
その土地土地の小さな家臣では、自給自足束ねる事は困難で
やはりこのスルガの国を束ねる長が必要となる時代の習わし。
その家督争いでスルガが割れた。
今川一門の関口(せきぐち)や瀬名(せな)は、
後の今川氏親(いまがわうじちか)である龍王丸(りゅうおうまる)を推し
家臣の朝比奈(あさひな)や三浦(みうら)等は義忠と義兄弟であった
小鹿 範満(おしか のりみつ)を推した。
朝比奈や三浦らは、義忠が起こした幕府への反逆的な行為で龍王丸が処罰される可能性を示唆し
強引に事を進め、龍王丸と母は幽閉同然の形でヤイズへ逃れる羽目になった。
こうしてスルガを二分し小競り合いが続く内紛が引き起こったのだが、事はそれで終わらなかったのである。
小鹿 範満の母方は関東を束ねる堀越公方(ほりこしくぼう)の執事、関東管領上杉家の出であるが
応仁の乱に乗じる事が出来なった両名がこのスルガの内紛に介入したのだ。
これに危機を感じた幕府は、龍王丸の叔父にあたる伊勢盛時(いせもりとき)後の北条早雲
(ほうじょうそううん)を派遣。
スルガを天秤に睨み合いが続いていたのを伊勢盛時の差配で両派歩み寄り、
龍王丸が成人するまで小鹿 範満が当主の座に着く事でこの場は治まった。
不満は残しつつも穏やかになったスルガであるが、今川はまたしてもエンシュー奪還という
目論みは砕かれ、さらに遠のいたように思える。
今川義忠(いまがわよしただ)の反逆とも思える行為が発端であるとはいえ、あの闇討ちが
悔やまれるのであった。
~話は戻して闇討ちの夜の刻~
ゴソっゴソッ
今川勢が駐屯した塩貝坂の草むらで何やら物音がする。
退去前という事もあり、見回りの兵が幾度となくその前を通り過ぎる。
その度にその物音は凍り付いたようにピタッと止まる。
動物でもいるのだろうか。
見回り兵は疲れているのもあって、さほど草むらを注視していないようだったが
いくばくか経って1人の見回り兵が物音のする方へ話しかける。
「そちらにおられるのは四郎兵衛(しろべえ)様でございますか?私、高橋家の者でございます。」
「いかにも、横地四郎兵衛秀長(よこちしろべえひでなが)である。
この地を治める高橋殿の使者であられるか?」
「我が主と本家新野様の命でまかりこしました。」
「かたじけない。」
実は横地四郎兵衛秀長(よこちしろべえひでなが)は生きていた。
横地城陥落の際、数人の兵と共に城をおりていたのだ。
憎き今川義忠(いまがわよしただ)の首をなんとしても討ち取らなければ
死んでも死にきれないというのである。
そんな混乱の中、1つの文が秀長のもとに届けられた。
【義忠を討ち取りたければ塩貝坂にて闇討ちするがよい。後は新野が差配する。】
怪しんだ秀長であったが、もう死に等しい命。義忠を討てるならばとそれを信じた。
「そなた等は今川方、なぜ小生どもにお味方される?」
「我が高橋、それに新野はもともと横地様の血族。
この様な横暴な振る舞い見てられませぬ。
この戦いを不義と思うている者が今川には少なからずいるという事です。
その思いを四郎兵衛様に託すとの事。」
「・・・・・相、わかった。
すまぬがその者の名前をお教え願えぬか。冥土の土産としたい。」
高橋家の使者は、口止めをされているのか少し困った様子だったが
ボソッと耳元で呟いた。
「あ・・・さま」
「かたじけない。」
そう言うと横地四郎兵衛秀長(よこちしろべえひでなが)は数人の兵と共に
丘を駆け上り義忠本陣へめがけ突進していった。
高橋家の使者は、その後ろ姿にそっと手を合わせた。

第六章【エンシュー今川焼】終了です。

次回は
ついに二俣城が重要視されて行きます。
<歴史が動いてヒストリ庵~エンシューの衆ら~3> 第七章【今からシバいたる】
をお送りいたします。

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