<歴史が動いてヒストリ庵~エンシューの衆ら~3> 第六章【エンシュー今川焼】vol.16

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横地城は翌8日たってもその火の勢いは衰えることなく
吐き出す黒煙を天に伸ばした。
以前逃げまどう者達の悲鳴がこだまする。
それは横地勢だけでなく、今川の兵達も多数混じっている。
今川義忠(いまがわよしただ)もまた、体中炭だらけで戦況を見つめている。
横地が滅んだとはいえ見聞も出来ず、燃え盛る火柱を眺める事しかできない。
これはもうどちらが勝者という括りでは収まらない惨劇になっていた。
「こんな、こんなはずでは、我の望んでいるのはこの様な事ではない!」
望んでいた結末とは程遠い目の前の状況に義忠は発狂した。
「この様な事になったのは、誰のせいじゃ!火矢を討ったのはどの部隊なのじゃ!」
そしてさらに彼は家臣の断罪をしようとする。
「殿!ここはもう危なきゆえ、まずは立ち退かれましてその後ゆるりと処遇を!」
それを断ち切ったのは、後詰として掛川城におり
その後救援に赴いた朝比奈 泰煕(あさひな やすひろ)である。
断固たる朝比奈の主張に、義忠はふと我に返る。
「・・・うむ、朝比奈のいう事も一理あるな。」
「殿。同じ道を歩まれては残党が襲って来るやもしれません。ここは一度南下し
海伝いに相良に抜けるのがよろしいかと。
その間の護衛は我が朝比奈が受け持ちますゆえ、ご安心を。」
毅然とした朝比奈 泰煕(あさひな やすひろ)の態度に、義忠はすっかり身をゆだねた。
「朝比奈のいう事間違いなし、そなたの部隊がついておれば安心じゃな。」
その言葉に朝比奈は少しニヤリとした顔をしたよう風であった。
ただしすでに日も暗く、少し南下した所の塩貝坂で野営する事とした。
そこは重臣新野氏の庶家、高橋氏が領する土地である。
小高い山の上から周りを一望できる。
北東に目を向けると暗闇の中に一カ所だけ炎に煌煌と照らされた横地城がハッキリわかる。
数時間前にあの場所で死闘を繰り広げていたと想像できないほど塩貝坂は静けさに満ちていた。
皆疲れていた。
野営見回りの兵もコクリコクリと頭を垂れる。
そんな丑の刻に入った辺りであろうか、本陣から悲鳴のような怒号の様な声が飛び交った。
「敵襲!闇討ち!闇討ちである!!!」
皆何が起きたかと思ったが、本陣の方に行ってみるとその重大さを伺う事になる。
あの今川義忠(いまがわよしただ)が死んでいる。
正確には誰かに殺されていた。
弓の一射、一瞬の出来事であった。


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