<歴史が動いてヒストリ庵~エンシューの衆ら~3> 第三章vol.4【二俣二間譚】

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※これはあまりにもフィクションです
※歴史認証はされておらず、あくまで個人の見解です。
安田三郎義定は重宝な鹿の皮を手土産に鎌倉入りをした。
彼にとってみれば、鎌倉は少し息苦しい。
義定は文武両道の方であったが、やはり武士、武道を重んじる傾向にあり
公家の真似事をしている武士たちがたむろするこの鎌倉はどこか違和感を感じるのである。
早速現在のエンシューの状況と逆賊とされた義経追跡の進展を報告せよと所見の間へ通された。
そこにはすでに頼朝が鎮座しており、イライラという雰囲気をかもし出していた。
「遠江守殿よく参られた。弟の追跡具合はどうか?もう一人の弟、蒲(範頼)より便りはもらうが。。。」 
「主要道の宿場や神社仏閣については、監視を強化しておりますゆえ王道を進む事はまかりなりません。
最北の奥州藤原氏に助けを求めるとすれば、抜け道を使用するほかなく。さすればと思い、現在は
奥浜名湖近辺を捜索しておりますが、未だ成果は見られず。」
「そなたとエンシュー武士は先の平家討伐のおりも良き活躍をしてくれた、皆を信頼していますよ。」
穏やかな口調の中にチクチクと棘が含まれる。それが頼朝である。
「はは、ありがたきお言葉。ところで本日は鎌倉殿に謙譲したき品がございます。」
「ほぉ、なんと、それは何か?」
義定は昨日狩った鹿、合わせて9頭の皮を頼朝の前に大大と広げてみせた。
その鹿の皮は大きく質感も素晴らしい、武家のたしなみである履物や小手などの装飾にはもってこいの品である。
頼朝はそれを見るなり大いに喜び、9枚の内5枚を自分の物とし3枚を息子にそしてもう1枚を 
この時、若手急先鋒であった小山七郎朝光という者に施した。
そして気をよくしたのか、義定の為に宴を催してくれるというのである。
彼も彼でお酒には目が無いので快くお受けする事とした。
ただこの安田三郎義定という男、酔うてはいけない男でもある。
「そなたと二人で飲みかわすのは、いつ久方ぶりであろうか。」
「そうですなぁ、鎌倉様が富士での敗走のおり、私が駆け付けた時以来でございましょうか。
いやぁ、あの時は間一髪でございましたなぁ。はっはっはっ。」
「うむ、そうであったな。されど今になってそれを持ち出すとは、ほほほほ。」
口では笑っているが顔は笑ってはいない。やはり内なる心を持つ頼朝である。
が、酔うている男、安田三郎義定。
ギラギラと突き刺さる頼朝の目線に一遍たりとも気づこうとしないお気楽な男である。
それでも一枚上手なのは頼朝の方で、それは想定済みと言わんばかり上司自ら話題を変えるのである。
「それにしても先ほどの鹿皮はとても見事であった。あれはエンシューの物であるか?」
「そうでございます。国府より北に行った二俣という地でとらえました獲物でございます。」
「小山の七郎も大いに喜んでおった。後からそなたにお目通りをと願っておったぞ。
して、他にエンシューでの暮らしで変わった事は無いか。」
この時、頼朝はすでに知っていた。勝間田三郎成長が自分の許可なく任官した事を。
またしてもあの範頼の仕業かともとれるが、定かではない。
彼は知ったうえで、義定の口から直接その事を言わせようとこの宴を催したのである。
仕掛けである。今でいうハニートラップの様な。
もちろんお酒が入れば超弩級お気楽な義定は、労せずとも仕掛けに自らかかりに来るようなもので、
極楽から地獄に突き落とされるのである。
「嬉しいことがありましてな、私の庇護している勝間田三郎成長という者が玄蕃助に任官しましてな。
可愛がっている身としましてはこれほど嬉しいものはございませんな。はっはっはっ。」
正直なのか馬鹿なのか、いや馬鹿正直な義定は、エンシューでの悩みはどこ吹く風で、自慢げに
その事を話してしまった。
頼朝はここぞとばかりに目の色を変え、眉がツンと吊り上がった。
引っかかった針から抜け出せなくなってしまった義定である。
※【玄蕃助】
律令制で、治部省に属し、寺院・僧尼の名籍や外国使節の接待などをつかさどる役
今でいう官僚である。

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