「殿、勝間田城が落ちました。修理亮 ( しゅりのすけ )様、捕らえられ斬首された模様。」
伝令の者が、静かに悔しさを堪えながら報告をしてきた。
横地四郎兵衛秀長(よこちしろべえひでなが)はそれを目を閉じながら微動だにせず聞いている。
「いかがなされましたか。」
秀長はふぅっと息を吐いた。
「我ら横地400年の歴史、ここで雌雄を決すか。」
横地四郎兵衛秀長(よこちしろべえひでなが)、一門であるが実は惣領(そうりょう)つまり当主ではない。
元々は将軍の近衛的役職で都にしたのだが、前年の堀越討伐の命でこの横地にもどっていたのである。
そしてこの戦乱の中、当主の者が倒れそのまま息を引き取った。
ゆえに臨時の城代として秀長が指揮を執る事になった。
秀長はスッと立ち上がり激をとばす。
「我が横地の命運ここに有り!横地の城は最後の砦である。まずは地形を利用して迎え撃つこととする。」
横地氏家臣共々子の地形を知り尽くしているので、どこから奇襲すれば効率的かを辱知している。
また400年という月日の賜物で、横地に呼応する浮浪の者や野武士達が加勢しようと集まってきていた。
勝間田城を完膚なきまでに落城させた今川義忠(いまがわよしただ)は、時を置かず南下を始めている。
勝間田城と横地城は谷と平地をはさんでそれなりに近く位置している。
伝令が報告に来たという事は、すぐ踵を返しこちらに来ていれば一時の猶予もない。
秀長は配置を急がせた。
勝間田から横地、その南下というわかもいかない。
横地に入るには手前で山々を西に迂回しなければいけないのだ。
横地勢はその側面を叩こうというのである。
(まただ来るな。まだ来るな。)
そう心で念じつつ、必死に配置を完了させようとする横地勢。
対して先の戦勝気分も相まって勢いがついている今川勢。
戦いには風が必要だと言うが、この勢いに乗じてというのはセオリーであり失策などではない。
だが、彼らはこの地を知らない。
知らなければ慎重に事を進めるのが上策であるが、今川勢はそれが抜けていた。
横地勢はなんとか今川勢が来る前に配置を終わらせた。あとは待つばかりである。
勢いに勝る今川勢か、用意周到の横地勢か。
両軍が対峙した時、それが始まる。