<歴史が動いてヒストリ庵~エンシューの衆ら~3> 第四章vol.12【東西南ボクイイね!】

ケヴィン

2017年06月09日 11:36

※これはあまりにもフィクションです   
※歴史認証はされておらず、あくまで個人の見解です。
大平城の内部では敵を今かと待ちわびていた。
それは出来る事なら来てほしくはないが、この逃げられぬ状態ならば
来る者皆なぎ倒すといった面持ちである。
それぞれの曲輪にそれ相応人数の兵を置き、何処にでも救援出来る様に本曲輪には別動隊を置く。
皆息をひそめ、武者震いをこらえている。
そうこうしているうち、本曲輪に伝令が走り来た。
「東曲輪に敵兵多数!」
井伊行直はカッと目を見開き立ち上がる。
「別動隊は東曲輪に迎い、敵を駆逐せよ!」
静かに流れていた大平城の空気が一瞬にして激流へと変化する。
別動隊が士気を鼓舞し、東曲輪に怒涛の如く押し寄せていった。
押しかける北朝軍を少ない兵でよく防いでいる。
一進一退を繰り返し、しばらくするとまた伝令が走りくる。
「西曲輪に敵兵多数!」
「なに!?」
行直の額にタラりと汗が流れる。
「東曲輪に向かった別動隊の半数を西曲輪に向かわせろ!」
「御意!」
行直はぐっとこぶしを握り締めた。
そして間髪入れずに他の伝令も走りくる。
「出曲輪が敵へに狙われて孤立しそうであります。」
たまらず陣台を叩き檄を飛ばす。
「北曲輪の兵をさき出曲輪の救援に向かわせろ!」
未だ兵達は少ない人数でも臆することなく必死でその場を防いでいるが
怒号と悲鳴が混濁する慌ただしさである。
行直は思っていた。
一点集中の攻撃で来てくれればまだ勝機はあるが、多勢に無勢なこの状況では
分散され囲まれたらひとたまりもないと感じていた。
これはもう消耗戦である。時間がたてば経つほど南朝方はジリ貧になっていく。
その懸念が現実化してきたのだ。
彼は、スッと目をつむる。
色々な思惑や権益、複雑に絡み合う状況の中で静かに自分の思いを感じてみた。
そしてゆっくり顔を上げる行直は宗良親王に陳情をした。
「お逃げください。」
なに?という感じで宗良親王は顔を見つめる。
「この様に奮戦している中で、予だけが逃げる事はかなわぬ。ここで討ち死にしてもという覚悟ぞ!」
「親王様には今後の南朝繁栄の為にも生き延びてもらわなければいけません。
実はすでに三河の足助氏と信濃の高坂氏には書状を送っております。
どちらもまだ返答はいただいておりませんが、必ずきっと力添えしていただけるはず。」
宗良親王は、はばからず涙を流した。
「そなた等は?」
「我々は北朝方を食い止めますゆえ、数日ならば持ちこたえる事が出来ます。
幸い北曲輪は無傷ですのでそちらより脱出してくださりませ。」
こうして、南朝方の殲滅から宗良親王の脱出擁護に大平城はその役割を移行していく。



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