【ある日常を小説とする風景】

ケヴィン

2013年11月19日 14:46

外はもう寒い。冬が来た。
かじかみつつある手をさすりながら私は
駅の入り口で妹が来るのを待っていた。
...
「お兄ちゃんいいよ!電話して、迎えに行くから。」
丁度帰郷していた妹から出掛け際にそう言われた。
夜11時をとうに過ぎてしまっていたが、
せっかくと思い連絡をした。
「・・・あぁ、今帰り?分かった。行くから。」
ほろ酔い加減の私でも、寝起きの対応とわかる程で
申し訳ないなと思いつつ、電話をかけてしまったので
仕方が無く、おとなしく待っているのだ。

・・・・・・ひどく孤独である。
ひたすら静寂が満ち溢れる。

1つしかない駅の灯りは、私を露骨に浮き彫っている。
冷たくなったベンチや準備中を掲げられた店は
すでに精気はなく、明日の英知を養っている。
たまに通る車は、この静寂から逃れるかのように
急ぎ早に家路へ向かう。

・・・・・・ひどく孤独である。が、怖くは無い。

こんなに静寂ならば、目の前のD51が動いても
よさそうなものなのに、一行に動く気すらない。
この駅に来る電車より、タイムスケジュールが鈍感である。

・・・・・・ひどく孤独である。が、少し心地が良い。

そうこうしていると、見慣れた車がロータリーの
向こう側から入ってきた。
「ゴメンおまたせ。」
妹である。
ごめんな~と数度言いながら後部座席に座る。

車中ではjAZZが流れ、暖かい空気と共に
サーフィンワックスの甘い香りが充満していて
それまで研ぎ澄まされていた感覚がフラットに
なっていくようだった。

「これ、マイルス・デイヴィス?」
「え?知らないよ。深夜って言ったらJAZZやってんじゃん。
・・・・・嫌いじゃないけど。」
「あっ、これラジオ?ふ~ん、なんかリズムが
マイルス・デイヴィスぽかったからさ。」
「ふ~ん。」
しっかり者の妹に対する、ちっぽけな意味のない兄の威厳。

そうして私は静寂を後にして家路に帰る。
それと同じくして、D51は夜空に舞い上がっていくのであった。

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